MadMoon2〜二つの月が出会う夜〜

 

 

*序章*

                                                       

 月の美しい夜だった。

 全てが闇夜に飲まれているのに、金色の月だけが己の存在を主張するかのように輝いて

いる。

 それを、とても美しいと思った。

「……素敵な夜ですね」

 その大きな金の月を背に、一人の少年が立っていた。何気なく呟かれた言葉。寒い夜空に

凛と響く、少し高いボーイソプラノ。

 13,4歳ほどだろうか。少年は目を閉じ、軽く顎を上げて空を仰ぐような姿勢を取っていた。

夜風が吹き、纏っていた黒いマントと金の髪が弧を描いて揺れる。

「……えぇ、とてもいい夜」

 間をおかずに返事があった。それもまた幼さの残る少女の声。だが、少年の側に人の姿

は見当たらない。

「こんな夜は体が疼きませんか?」

 けれど少年はそんなことを気にした様子を見せずに呟く。クスクス、と子供のような笑い声

をあげながら。

「疼くって……どんな風に?」

「……わかっているくせに……」

 少女の声も笑いを含んでいた。しばらく、二人の子供の笑い声が暗闇に響く。邪気を感じさ

せない、あどけない子供の声。……だが、その声はどこか冷たい雰囲気を纏っていた。

「出会いには最適な夜ですよ。……じゃあ、行きましょうか」

 そう呟くと、少年は顔を上げたままそっと目を開けた。 そこにあったのは、血のように紅い

二つの煌き。その目が遠くを見るようにすうっと細められる。

「行ってらっしゃい」

「……一緒に来てくださらないのですか?」

 突き放すように返された少女の言葉に、少年は微笑みながら後ろを向いた。けれど、やは

りそこには誰もいない。ただ少女のクスクスと笑う声が響き渡るのみ。

「まだその機会じゃないわ。そうでしょう?」

 少女の声に、少年は薄い唇に笑みを浮かべた。

「それもそうですね」

 そうとだけ言うと、少年はゆっくりと歩き出した。

「……行ってらっしゃい、リオン」

 もう一度、少女の声が響いた。次の瞬間、少年の姿は闇に紛れるようにその姿を消した。

 

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