第4回

「イリア……?」
 ルーミスは、見てしまった。
「嘘だよね……?」
 酒場に入ると、そこには血の匂いが充満していた。
 見えるのは、見なれた少女の後姿。その下には、この酒場の主人だった男が寝転がっている。
 ……体から、真っ赤な液体を流して……
「嘘だって言ってよ!」
 ルーミスは叫んだ。力の限り叫んだ。
 ……しかし、事実が変わることなどなく……
 背を向けていたイリアが、ゆっくりとこちらのほうを向く。
 イリアは、いつもと変わらぬ様子で――

 ……微笑んでいた……

「おかえりなさい。ルーミス」
 その笑顔は、いつもルーミスが部屋に戻って来たときに見せてくれていたものだった。
 ……違ったところと言えば、手に持っているものがおたまなどでなく、血に濡れた銃だったというくらいで……
 イリアの着ていた真っ白なワンピースは、ところどころ斑に血で染められていた。
「うっ……!」
 鼻をつつく血の匂いに、ルーミスはガクンと片膝をついた。……どうも、血の匂いだけは慣れそうにない……
「イリア……どうして……?」
 口を手で覆ったまま、ルーミスはゆっくりと顔を上げた。が、イリアはまだあの微笑みを見せているだけだった。
「どうして……どうしてなんだよイリア!」
 懇願するような瞳で、もう一度イリアに問う。だが、それでもイリアは微笑んでいるだけだった。
「あたしは……あたしは信じてないからね! イリアが盗賊団の一員だなんて!」
 ふらつきながら立ちあがり、ルーミスは叫んだ。そこで初めて、イリアの表情に変化が見られる。眉をピクリと動かしてから、イリアはふっと溜息をついた。
「そっか……知ってたんだ……」
「……イリア……?」
 寂しそうに横を向くイリア。
「信じてていいのよ? だって私は盗賊団の一員だもの」
 決して変わることのない笑顔を見せて、イリアはルーミスの方に向きなおした。
「…………」
「『どうして盗賊団なんかに?』って顔、してるわね。簡単な理由よ。他に行くところがなかっただけ」
 言葉を発することができないルーミスにかわって、イリアはペラペラと自分のことを話し出した。
「私たちはね、親に捨てたられた同士なの。……ま、リーダーがもともと盗賊でね、親に捨てられて路頭に迷ってたところを助けてもらった。だから私が一緒になったの。……それからは早かったわ……行くところをなくした人間は、盗賊になればいいのよ。私たちは団に入りたいという人を誰一人として追い返すことはなかったわ」
「でも……でも、盗賊なんかじゃなくても……!」
「盗賊になるしかなかったのよ。私は」
 ルーミスの放った言葉を、イリアはあっさりと切り放した。
「信じていた親に捨てられた……これ以上の絶望がある? 最初は生きる力すらなかったのよ? わかる?」
「それは……」
 ルーミスも父を失い、こんな荒れ果てた街にほうりこまれ、何度死のうと思ったことがあるか数えきれない。……でも……
「……でも、あたし達は生きてるじゃない。この世界を生きてて、失うものはたくさんある。でも、逆に得る物だってたくさんあるじゃないか!」
 ずかずかとイリアの方に歩みより、ルーミスは彼女の両肩をつかんだ。しかし、イリアの表情は変わることなく……
「……いいね、ルーミスは。そういう風に物事を考えることができて」
 そう、小さく呟いた。そして、今より少し目を細めて続ける。
「私ね、ルーミスのそんなところが大好きだよ……でも……」
 軽くルーミスを突き飛ばし、イリアは持っていた銃をルーミスの方に向ける。
「私ね、ルーミスのそんなところが大嫌い」
 やはり微笑んだまま、イリアは呟いた。ルーミスはもうどんな顔をしたらよいのかわからなくなってくる。
「わかったでしょ? 私の正体は盗賊団の一員。このスラムを乗っ取るために侵入してきたの。本当はルーミスも仲間に入れようと思ってたんだけど……」
 イリアは、ルーミスの方をじっと見る。その視線に気付き、ハッとルーミスは我に戻り、唇を結んでから首を振った。
「うん。返事はわかってた……でも……」
 イリアはふと、寂しそうな笑顔を浮かべる。
「ルーミス……あなたにだけは知られたくなかった……私が盗賊だってこと……」
「……イリア……」
 そうだ。あたしは何のためにイリアを探していたんだ?
 ルーミスは、そんなことを思い出す。
 イリアを……イリアを理解しようとしてたからじゃないの? 盗賊になったのだって、きっと理由があったからだ。
「ねぇ! イリア!」
「?」
 ルーミスは明るく声をかけた。
「その盗賊団……抜け出せないの? 抜け出してさ、あたしと新しい人生を始めようよ!」
「ルーミス……」
 自分とは違い、生き生きとした笑顔を浮かべているルーミスに、イリアはちょっと悩んだように銃を持った手を下におろし、そのまま下を向いてしまった。そして、しばらく流れた沈黙の後……
「……私、盗賊だってこと、ルーミスにだけは知られたくなかった……だって……」
 下を向いたまま、さっき言った言葉をもう一度繰り返す。
「だから……!」
 叫ぶルーミスを横目に、イリアはゆっくりと顔を上げた。
「……だって、私がルーミスを殺さなくちゃいけなくなっちゃったんだもん」
「……え……?」

バンッ……!

 ルーミスが聞き返すのとほぼ同時に、イリアは手に持った銃をルーミスに向けて一発放った。
「……イリ……ア……?」
 少し驚いた表情のルーミスに、イリアはまたあの笑顔を見せていた。
 弾はルーミスの左頬をかすめた。
「あ……残念……」
 ルーミスの頬から、真っ赤な血が流れ出てくる。しかし、ルーミスはそんなものは気にも止めようとせず、ただ微笑むイリアの顔を見つめていた。
「ごめんネ、私の正体を知っている人間を生かしておくことはできないのよ」
「……どうして……?」
 ルーミスは、無意識のうちに自分の左モモのあたりに手を伸ばしていた。
ザッ!
 そして、『それ』をいっきに引きぬいた。
「……どうしたの? そんなものを抜いて」
 クスリと笑い、イリアは小首をかしげた。
 ルーミスは、自分で引き抜いた銃を見てハッとする。
「ダメよ。……この間言ったでしょう? あなたには致命的な弱点がある。……それを克服しない限り、あなたは私に決して勝てない。……そのくらい、わかってるでしょう?」
「………」
 自分に向けられた銃を睨むように見つめ、ルーミスは自分の頬を伝う汗を感じていた。もう、呼吸も荒くなってしまっている。
 ガタガタと震える手を抑えようとするが、震えは一向に止まろうとしない。イリアは微笑んだまま、
「大丈夫、ルーミス。……次は、はずさないから……」
 小さく、そう呟く。その瞬間……
「ああああああああああああ!!!!!!」
 ルーミスの中で、何かが弾けた。そして……

バンッ!

 時が、止まったような気がした……
 ルーミスは、そっと目をあける。
 目に写ったのは、人が倒れていく姿。
 ゆっくりと静かに、イリアが床に接触する。それを、ルーミスはただ黙って見つめているだけで……

 ……生まれて、初めてだった……

 人を……人を、撃ったのは。


 あの日、イリアはルーミスにささやくように呟いた。
 ルーミスが、男に殺されそうになった、あの日……
「……ルーミス、あなた……」
 顔にかかる髪の毛をかきあげ、イリアはルーミス耳元で呟く。
「人を撃ったことがないでしょう?」
「!」
 ルーミスは顔を上げた。イリアがニコリと微笑んでいる。
「ダメだよ。ルーミス。……弱点は……命取りになるんだから……」


 目の前に見えるのは、女が倒れていく姿。
 弾き飛ばされたように体を反らせ、そのまま木の床に鞠のようにバウンドをして……
 いつのまにか、手の震えは止まっていた。
 鼻を突く血の匂いも、気にならなくなってしまった。
 一瞬何が起こったのか理解できず、ルーミスは呆然としたまま、ゆっくりと床に突っ伏したままの少女の元へ歩いていった。
 弾は、イリアの右肩を貫通していた。床に、彼女のものと思われる血が流れ出てくる。
「……どうして……?」
 イリアの横にしゃがみこみ、ルーミスは彼女の体を起こした。
「どうして銃を下ろしたの? イリア!」
 ルーミスの叫びに、イリアは苦痛の笑顔を見せるしかなかった。
 ……確かに、ルーミスは見ていた。
 自分が銃を撃ってしまう直前、イリアは銃を下ろしたのだ。その気になれば、ルーミスより先に銃を撃つことは十分できたはずなのに……
「どうしてなの? 答えてイリア!」
「……そんなに大きな声で叫ばないでよ……」
 イリアは、弱々しく耳を塞いだ。顔からどんどん血の気がひいていく。
「……イリア……?」
 おかしい。ルーミスは思った。いくら自分が彼女を撃ってしまったとは言っても、当たったのは肩だ。どうしてこんなにも彼女は苦しんでいるのだ……?
 苦笑いをするイリア。その時ルーミスは、イリアを支えている手のヌルッとした感触に気がつく。慌てて見てみると、その手は真っ赤な血で染められていた。
「! イリア……あんた!」
 ルーミスは、イリアのワンピースの腹部あたりを破りとった。……そこには……
「……仕方がなかったのよ……時間がなかったんだから……」
 あくまでも笑いながら、イリアは呟いた。イリアには、ルーミスが撃たれた肩とは別に、左の腹部にも銃創があったのだ。
「どこで……どこでこんな傷を?」
 しかし、ルーミスの問いに、イリアは微笑みしか返してくれなかった。
 でも、ルーミスにはわかっていた。紙のように白くなってしまったイリアの顔。腹部からの出血。……もう、イリアは……
「…………」
 声を噛み殺して、ルーミスは頬に涙が伝うのを感じた。震える腕で支えているイリアの頭を自分の胸に押しつけ、大声で叫んでしまいそうになるのを必死にガマンしている。
「ねぇ、ルーミス」
「………」
 イリアの声に、ルーミスはもう言葉を返すことも出来なかった。口を開いてしまえば、このまま泣き叫んでしまいそうだったから……
「もし……私が盗賊じゃなくって、あなたもガンマンなんかじゃなかったら……そうしたら私達、友達同士になれたのかなぁ?」
 ルーミスは、泣き出してしまいそうになるのを必死に抑えた。そして、涙でぐしょぐしょになってしまった顔に、無理矢理笑顔をうかべた。
「……うぅん。無理だよ……だって、あたしがガンマンで、イリアが盗賊だったから……だから、あたし達は友達になれたんだもん」
 ルーミスがガンマンでなかったら、イリアはルーミスの元には来なかったであろう。
 イリアが盗賊でなかったら、彼女はルーミスの元には来なかったであろう……
 言い終わると、再びすすり泣きを始めたルーミスを見た後、イリアふっと天井のほうを見た。もう、視界もかすんでしまって何も見えないはずなのに、そこにイリアは、光を見たような気がした。そして、小さく……誰にも聞こえないくらい小さく、呟いた。
「……そっか。そうだよね。なぁんだ……簡単なことだったんだ」
 その時突然、イリアの体重が重くなったように感じた。
「……イリア……?」
 驚いて、呼びかけてみる。
「イリア……?」
 返事はない。目をつむり、いつも見せてくれていた笑みを浮かべているだけだった。
「イリア……イリア? イリア!」
 激しく揺さぶってみる。しかし、何の反応も見られない。
「イリアァーー!」

 ――……それが、イリアの短い人生の、最後だった――


 それから、どのくらいの時が流れたかは覚えていない。
 まだイリアの亡骸を抱きしめたままのルーミスの所に、突然ギルドの人間が押しかけてきたのだ。
 ルーミスは、何もしようとはしなかった……ただ呆然と、ギルドの人間にされるがままになっていた。
 手の中から、イリアの遺体が奪われ、ギルドまで連れていかれた。ルーミスが盗賊団に関わりがないことは、ギルドの人たちもわかっていてくれたらしいから、すぐにルーミスは釈放された。
 盗賊団が捕まったのか、イリアの遺体がどうなったのかは、わからない。でも、もうルーミスには全てがどうでも良いことだった。
 頭の中が真っ白になって、ルーミスはただただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「ルーミス?」
 ギルドから釈放されて間もなく、ルーミスの前に一人の男が現われた。
「…………」
仕事場で働く男……ルーミスに、イリアの手配書の紙を手渡した男だった。
 呼びかけられた声に少しだけ顔をそちらの方に顔を向けたが、またすぐに視線を元に戻してしまう。
「ギルドに連れていかれた。って聞いて……親方達に様子を見てこいって言われたんだ……。でもよかった。無事みたいだな」
 ほっと胸をなでおろす男の横で、それでもルーミスは表情を変えようとはしなかった。
「……もう、もうどうでもいいんだ……」
「え?」
 やっと声を出すことが出来た。でも、その声もほとんどかすれてしまっていて、誰にも聞き取ることはできない。
「どうしたんだ? ルーミス……?」
 優しく声をかけてくれるのを無視して、ルーミスは男の横を通りすぎた。男は追いかけようとしていたが、ルーミスの背中を見て何かを察してくれたのだろう……。それ以上、追いかけてこようとはしなかった。
 歩きながら、そっと左頬に触れてみる。イリアが、ルーミスに向けて撃った銃。この傷を見て、ギルドの人間が応急手当をしてくれたのだ。
 ギリッと唇を噛み締め、ルーミスは頬に貼られたガーゼをむしりとる。まだ癒えていない傷口に風が当たってひどい痛みが襲ったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
 だって、どうしても行かなければいけない場所があったから……
 無意識のうちに足がある場所へと向かって歩き出している。
 もう、何がどうなってもよかった。
 だって、イリアはどこにもいないのだから……


 ルーミスがたどりついたのは、この丘だった。
 両親の墓石より少し離れたところに、どこからか見つけてきた石を、ルーミスは並べた。
 いつも持ち歩いているサバイバルナイフで彼女の名前を彫った。
 どうして名前なんか彫ったのかは覚えていない。もう、自暴自棄になりかけていた。
「ねぇ、イリア……あたしはあなたの約束を守ってあげたよ……?」
 日はすでに沈み切っていて、夜風が見にしみた。
 ガクンと膝をつき、名ばかりの墓石を抱きしめ、ルーミスは顔をうずめた。
(もし私が死んだら、ここにお墓をたててくれない……?)
 イリアの言葉が、まるで昨日起こった出来事かのように思いだされてくる。
「……ちゃんと立ててあげたよ……?」
 頬に伝う何かを感じながら、あたしは小さく呟いた。
(……どこにもいかないで……あたしの側にいて……!)
(……うん。ずっと側にいる。ルーミスと……一緒にいてあげるから……)
 初めて、誰かに泣きついたあの日。この人となら、友に生きてゆけると、本気で思っていた。
「それなのに……!」
 うずめた顔を上げ、ルーミスは力いっぱい墓石を叩き始めた。
「あたしばっかりが約束を守って! あんたはあたしに何をしてくれた? 側にいてくれるって! 一緒にいてくれるって言ったのに!」
 痛みなどまったく気にしなかった。ただ、今はこみ上げてくる怒りを押さえることができなかった。
「約束……したのに……」
 だんだんと手の力が弱まってくる。
 わかってる。どれだけ怒っても、叫んでも、イリアは戻ってこないのだ。
 わかってはいるが、その事実を受け入れることができない。
 もう、家に戻ってもあの笑顔を見ることは二度とないのだ。
 むきだしにされたままの頬の傷に触れる。
「この傷は消さないよ……」
 フラリと立ちあがり、頬に触れたまま墓石に向かって叫んだ。
「この傷は消さないよ! 誰があんたのことを忘れてやるもんか! この傷痕に触れるたびに、あたしはあんたのことを思い出す。もう、誰にもあたしみたいな目にはあってほしくないからね!」
 そして、くるりと背を向け、ルーミスは元来た道を戻っていった。決して、後ろは振りかえらない。
「誰が忘れてやるもんか……」
 呟いたあと、視界がかすんできた。
「忘れられるわけないだろ……」
 ルーミスは、その日決めたことがある。
 もう、決して泣かないって……


 イリアの墓石で羽を休めていた鳥が、純白の翼を広げて大空へと飛び去って行った。ルーミスはそれを無言で見送る。
 その日から、ルーミスは人が撃てるようになった。
 イリアの言う通りだったのだ。ルーミスは人を撃ったことがなかったのだ。
 父は、自分の娘に人殺しをしてほしくないと考える人だったし、何よりルーミスが人を撃つという行為に対して、異常なほどの拒絶反応を起こしていたのだ。
 ……自分から父を奪った銃では、どうしても他人を撃つことができなかった……
 でも、凄腕とうたわれていた父のおかげで、ルーミスにまともに勝負を挑もうと思う者などおらず、やはり父の血を引いているおかげか、人間以外は何でも撃つことができたので、なんとか威嚇射撃だけで切りぬけられてきた。
 でも、今は違う。
 もう、平気で人を撃てるようになっていた。さすがに殺すことはできなかったけど、致命傷にならない程度の傷を相手に負わせ、ピンチの時はそれで逃げることができていた。
 皮肉なものだ……。イリアは、このことを予測していて、自分からすすんで撃たれたというのだろうか? 自分の死期を悟り、それで悪役を買って出て、ルーミスに引き金を引かせたのだろうか……。もう、今となっては知る由もない。
 だが、これだけは言える。
「ありがとう……あんたが命を張ってくれたおかげで、今のあたしがあるんだよ……」
 ルーミスはイリアの死後、旅に出た。どこか目的地があるわけでもない。昔、父が生きていたときのように、世界中を旅して周った。
 何もかも、最初からやり直そうと思って。
「……今、幸せだよ」
 墓石に向かい、ルーミスは微笑んだ。
「あのね、報告したいことがあるんだ」
 そう言って、立ちあがった。頬をわずかに赤く染めて、
「……あたしね、結婚するんだ」
 風にかき消されてしまいそうな小さな声で、呟く。
「相手も冒険者。旅の途中で会ったの。とっても良い人。あたしになんてもったいないくらい……」
 ルーミスは笑った。
「本当は一緒に来たかったんだけど、今日だけはどうしてもあたし一人だけで来たくて……。あ、結婚しても旅は続けるつもり。だから、次にここに来れるのはいつになるかわからない。でも、必ず戻ってくるから……」
 だから、と言いかけて、ルーミスは言葉を無くしてしまう。少し迷ったあと、
「だから……」
 もう一度、呟く。
「だから、見守ってて」
 瞳から涙が溢れてくる。もう、何も我慢をする必要はないのだ。
 眩しいくらいに太陽が輝いている。立ちあがって、少し目を細めて空を仰ぐ。空には、あの白い鳥が自由に飛びまわっていた。果てしなく青い空、どこまでも続く草原、潮の香る道――
 決して忘れまいと、全身でその自然を受けとめる。次にここを訪れた時も、変わらぬ姿で迎えてもらえるよう、祈りをこめて……

 ルーミスは歩き出した。

 ピィー、と鳥が鳴き、ルーミスを見送ってくれる。
 それに答えるかのように、ルーミスは両手を広げて、涙が滲む目をこすり、大声で叫んだ。

 私達もう、片翼じゃないよね。

戻る

もし「面白かった」と思ってくださったらこちらから投票をお願いいたします♪

「ミナルママサキ」で検索してください。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送